2024-01-25日語ミニストリー

私の俳句
(米司紀子)
もう四年前になりますかしら、母校の同窓会誌に俳句のクラスの広告を見つけ、入会し、ホトトギス派の故稲畑汀子さんのお弟子、水田先生につきました。何も知らぬ俳句の世界に友達の反対を押し切り、飛び込んだのです。575の詩は難しく, ホトトギス派は字余りはだめ、季語も必ず入れなければなりません。楽しく、面白くて難しいです。

書き初めや母の使ひし筆と墨                    特選

母は書道に興味を持ち、書道芸術院の会員の先生に十五年習い、友達や私の祖母に手紙は筆書きでした。上達しないといつも悲しそうに自分の字を見つめて、つぶやいていました。私から見れば、上手だなと思っていたのですが。書きながら、又、駄目だとぼやいていました。しかし、先生には上手だよ、次の展覧会に出品しようと言われ、出品した掛軸をここにかけています。母の筆と墨を見ると練習に励んでいた母の姿がいつまでも見えるのです。

ビードロの優しき酒器に濁り酒               特選

母との思い出は多く、特にいつも晩酌を一人でも楽しみ、料理好きで、毎晩御馳走を作っていました。ビードロの優雅な姿の酒器を見てその美しさに目を見張り、その思い出が俳句になったのです。飲めない私は伸びやかな注ぎ口からのお酒にうっとり眺めておりました。確か濁っていたように思えます。和の美しさです。思い出が俳句になる楽しさを頂いております。

草霞む旅の想ひ出遠くなり                       特選

亡き夫とは長い夏休みをしばしばヨーロッパと日本で過ごしました。ミュンヘンで新車を購入した事もあり、運転好きの夫は疲れを知らずで車で周りました。まだスマホの無い時で、私のミシェリンの地図のガイドで、ヨーロッパを周りました。ヴェニスのゴンドラに始めて乗った時の感動、ノートルダム大聖堂の上まで登り、ガーゴイルを見て興奮したり、古城のホテルで泊まり、舞踏会の音楽が聞こえて来そうになったり、オーストリアの田舎、スイスではハイジが住んでいるような家、アルプスの美しさに心ときめき、中世の町に歴史を感じたのです。 傘寿の時、ミランの大聖堂の屋根まで登るのに孫が付き添ってくれました。素晴らしい旅の思い出が次第に遠くなって消えてしまいそうです。

松茸の香りに心郷にあり                           特選

先日、日本のスーパーに行くと、なんと松茸のパッケージが沢山積み重ねてあり、思わず立ち止まって、見惚れたのです。松茸! 懐かしい思い出が一杯の松茸! 松茸の前でいつのまにか昔に戻ってしまいました。秋になると、芦屋辺りの近くの山は立ち入り禁止のサインが貼られ、松茸のシーズンだとわかったのです。 芦屋川の駅には松茸屋が粗い籠に羊歯の葉と松茸を入れ、大声で売り出し、いつも父が松茸の籠を選び、母が色々お料理してくれ、松茸ご飯、焼き松茸、天ぷら、土瓶蒸しなど秋の味覚を楽しみました。亡き夫との出会いも父が松茸のすき焼きに招いたのです。早速松茸ご飯にし、色々な思い出にふけり、美味しさと懐かしさの溢れる夕飯になりました。
その他、田鶴の会誌に載った入選句

木の実踏む遠くの日々の蘇る

木の実落つ栗鼠の噛み跡ここそこに

掬ひたし盤に映る秋の月

朝顔の迎へる朝の清々し

里山の白馬佇む秋の草

今宵咲く月下美人の明日無く